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大阪高等裁判所 昭和53年(行コ)27号 判決 1979年2月27日

京都市下京区大宮通松原下ル西門前町四〇七番地

控訴人

久保田繁太郎

右訴訟代理人弁護士

森智弘

京都市下京区間の町下ル大津町八番地

被控訴人

下京税務署長 川戸哲

右指定代理人

服部勝彦

山中忠男

岡田昌幸

藤島満

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  控訴人

1  原判決を取り消す。

2  被控訴人が昭和四四年三月一一日付でした控訴人の昭和四〇年度分所得税について所得金額を七五九万九一七〇円、所得税額を一九五万四二〇〇円とする更正及び過少申告加算税七万三三〇〇円の賦課決定を取り消す。

3  被控訴人が昭和四四年三月一一日付でした控訴人の昭和四一年度分所得税について所得金額を一〇六二万〇八九四円、所得税額を二八〇万四六〇〇円とする更正及び過少申告加算税九万二三〇〇円の賦課決定を取り消す。

4  被控訴人が昭和四四年三月一一日付でした控訴人の昭和四二年度分所得税について所得金額を一〇二六万〇一三二円、所得税額を二六七万二九〇〇円とする更正及び過少申告加算税九万四四〇〇円の賦課決定(ただし、いずれも昭和四五年四月八日付裁決による一部取消後の金額)を取り消す。

5  訴訟費用は第一・二審とも被控訴人の負担とする。

との判決

二  被控訴人

主文同旨の判決

第二  当事者双方の主張及び証拠関係は、次のとおり訂正・附加するほか、原判決事実摘示と同じであるから、これを引用する。

1  原判決九枚目裏六行目から同七行目の「甲第七号証の一ないし四、同第一三、第一六号証は各写真」を「甲第七号証の一ないし四は、澤田寅二郎が昭和四六年六月一〇日に撮影した吉相碑建立状況の写真であり、第一三号証は、同人が昭和五一年一〇年二〇日に撮影した本件墓地の写真である。また、第一六号証は、竹谷進の筆跡により作成したパネルの写真である。」と訂正する。

2  控訴人は、証拠として、当審証人久保田秀二郎の証言を採用した。

理由

一  当裁判所も、控訴人の本訴請求をいずれも棄却すべきであると判断するが、その理由は、次のとおり訂正・附加・削除するほか、原判決理由説示と同じであるから、これを引用する。

1  原判決一二枚目裏二行目の「甲第一四号証、」の次に「乙第一ないし第三号証、」を加え、同八行目の「同久保内秀二郎」を「原審及び当審証人久保田秀二郎」と訂正する。

2  原判決一三枚目表一行目から同二行目の「祭祀者が住むことを吉相とするものであるところ、」を「祭祀者が住み、少くとも月に一回は礼拝することを吉相とするものであり、したがって、祭祀者が遠隔地に転居したような場合には、これに伴って墓碑も移転することが望ましいとされているところ、」と、また、同裏七行目の「変わるところがないことが認められ、」を「変わるところがないこと、以上の事実が認められる。」とそれぞれ訂正し、同行の「祭祀承継者」から同一四枚目表二行目まで全部を削除する。

3  原判決一四枚目裏一〇行目の「吉相墓地」を「吉相碑建立地(以下「吉相墓地」という。)」と訂正する。

4  原判決一五枚目表九行目の「徳風会」を「自治会に委ねられており、同会」と訂正し、同末行から同裏一行目の「や祭祀者が絶無となり所謂無縁となった場合」を削除し、同五行目から同六行目の「右使用者の負担すべき撤去費用」を「右撤去等に要した費用」と、また、同一一行目から同一二行目の「方法をとり」から同一六枚目表一行目の「によれば」までを「方法をとり(訴外会社においてこれを「吉相墓地分譲」という見出しの案内広告をしたこともあった。)、訴外会社作成の資料(乙第五号証)だけに基づいても、」とそれぞれ訂正する。

5  原判決一六枚目表二行目の「一、九二一万円」を「一九三九万円」と、また、同九行目の「区画変更」を「墓碑設置場所の移転変更」とそれぞれ訂正し、同裏一行目の「履行していること、」の次に「原告が無縁ということで吉相碑を撤去したことはこれまでに一度もなかったこと、」を加え、同四行目の「原告は」から同六行目の「いること、」までを削除し、同行の「夫々認められ、」の次に「当審証人久保田秀二郎の証言中右認定に反する部分は、原告本人の供述及び弁論の全趣旨に照らして採用することができないし、他に」を加え、同九行目の「本件保証金」を「本件墓地使用保証金」と訂正する。

6  原判決一七枚目表六行目から同一九枚目表九行目まで全部を次のとおりに改める。

前記認定事実によると、本件墓地使用保証金返還条項の内容は、墓地使用者が墓地使用を不要とする場合に本件墓地使用保証金を返還するというものであるところ、吉相碑は構造上から見ればその移転が日本古来の墓碑よりも容易であるということができ、また徳風会の教義が祭祀者の住居近辺に墓碑を建立することを吉とするものであるとしても、現下の土地情勢に照らせば、転居の都度墓碑をその近辺に移動することがそれ程容易でないことは明らかであって、その墓碑の移転性の面ではこれを位牌などと同列に扱うことはできないのであり、したがって、吉相碑の移転性がその本質であるにせよ、先祖の霊を祀るため相当の出費をして墓碑墓地をかまえた先祖の祭祀者が容易にしかも短期間にその使用の中止解約を申し出ることは、遠隔地に転居永住し墓参も不可能になるなどよほどの事情のある特別の場合を除き、一般には希有のことに属するものといわなければならない。したがって、本件墓地使用保証金につき前記返還条項の定めがあるとはいえ、これをもっぱら金融目的のために近い将来の定時における返還を予定した預り金と見ることはできないのである。そこで、それではこれを原告主張のような担保のための預り金と見ることができるかどうかについてさらに検討するに、前記認定のとおり、墓地使用者が原告に対して負担する債務としては、主として吉相墓地の使用を中止した場合における墓碑の撤去義務だけであるというべきところ、墓地の使用を中止するということは、前段で説示したように、一般的に希有なことといえる(実際にも極めてわずかであることは前記認定のとおりである。)ばかりでなく、吉相碑の前記構造上の特色及び吉相碑を建立しようとする人の社会的地位(当審証人久保田秀二郎の証言によると、いわゆる中流以上の人が多い。)からすれば、その撤去費用も負担しきれない程それ程高額であるとは思われず、現に前認定の本件墓地使用保証金返還例においても一例を除き使用者が自発的に自己の費用で撤去を済ませており、さらに、原告が吉相碑を無縁ということで撤去したことはこれまでに一例もないというのが実態であって、このような諸点に原告の本件墓地使用保証金額決定方法をも合わせ考えると、本件墓地使用保証金授受の当事者が吉相碑撤去費用の担保の趣旨でこれを授受したものとは認められないのであり、本件墓地使用保証金預り証に記載されている返還条項にかかわらず、本件墓地使用保証金は実際にはほとんど返還されることがないことを原告も予想して収受したものといわざるをえないのであって、本件墓地使用保証金の主たる経済的機能及び性質は、原告が吉相墓地の使用を供与したことの対価であるといわなければならない。

そうすると、原告は、本件墓地使用保証金の収受により、その年度において同保証金と同額の収入を得たものというべきであり、右収入は、所得税法二六条に定める不動産の貸付による所得に該当するものといわなければならない(なお、原告が本件墓地使用保証金を使用者に現実に返還した場合には、その支出をその年度における必要経費として控除することを認めることによって、不都合はないと考えられる。)。

7  原判決一九枚目裏九行目から同一〇行目の「原告は訴外会社の代表取締役であり、」を削除し、同末行の「収益にも計上せず、」を「帳簿上も訴外会社が本件墓地使用保証金を収受したものとして計上されていないこと、現実にも原告個人がそのすべてを収受して」と改める。

8  原判決二〇枚目表二行目の「後日」から同五行目の「行われていないこと」までを削除し、同七行目から同末行まで全部を次のとおり改める。

右認定事実によると、本件対象土地に訴外会社所有土地が含まれているとしても、原告は、同土地も含めていわゆる吉相墓地分譲をし、これによる本件墓地使用保証金をすべて原告が収受して自己のために使用しているものと認めるべきである(原告が、原審で述べるように、後日この保証金の収受が所得と確定された場合には、右訴外会社所有土地分の保証金に相当する分は同訴外会社に返還する意向を有しているとしても、右の結論に変りはない。)から、本件係争年中の本件墓地使用保証金による経済的利益は、すべて原告が享受したものといわざるをえないのであり、したがって、これによる所得は原告に帰属するものというべきである。

二  よって、控訴人の本訴請求をいずれも棄却した原判決は相当であるから、本件控訴を棄却することとし、控訴費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 唐松寛 裁判官 山本矩夫 裁判官 平手勇治)

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